「Untitled」シリーズ

宇宙の年齢は約138億年と推定されています。
宇宙起源の説であるビッグバン理論によると、無から誕生したインフレーションにより急速膨張しビッグバンが起き、宇宙が誕生しました。
そして、宇宙が誕生した直後に素粒子が飛び交い、素粒子同士が結びつき原子が誕生しました。
原子が結合していき、長い時間を経て恒星が誕生し、銀河へと成長し、その中で、私たち人類も誕生しました。

すなわち、銀河も、星も、石も、水も、木も、鳥も、細菌も、そして私たち人間も、みな同じルーツで同胞なのです。
それらは、様々な経緯でそれぞれの生命体となりました。

鉄より大きい原子量を持つ原子は、超新星爆発を経て生まれますが、私たちの身体は、それらの原子を含んでいます。
私たちの身体は、地球外で生まれた原子が再構成することにより、生命を宿したものです。

人間の遺体が焼かれると二酸化炭素や水蒸気となり、様々な原子となって飛び散ります。
原子たちはほとんど永遠に、滅することなく地球の中で巡回しています。

私たちの身体を作っている原子は、宇宙で生まれ、地球の中での巡回を経て、今ここで、私たちの身体となっています。

その原子のいくつかは、かつての偉人からやってきたのかもしれないし、
好きな人が吐く息からやってきたのかもしれないし、
近くの木々からやってきたのかもしれない。

「Untitled」シリーズは、目では見ることができないけれど、確実に存在している現象を提示します。

それは、宇宙の始まりや、宇宙のどこかで起きている現象、銀河や星々の動き、空気や水の流れ、体内で起きている現象、DNAの働き、原子の動き、素粒子の動き。

描かれている点は、素粒子であり、原子であり、空気であり、水であり、人間であり、様々な生命体であり、星であり、銀河です。

脳は宇宙と繋がっている器官という説があります。
思考を排除して、脳の先にある感覚をダイレクトに手に届け、点を描きます。

また、何層にも重ねられた背景は、無から生まれ、また無となり、無から生まれて、さらに変化する、その様を表しています。

右下にある数字は、この作品が世界に生まれた瞬間の年月日と時間を表し、「今、ここ」を強調しています。

「Untitled」シリーズの名前は、そもそもその着想から「SPIN」としていましたが、制作を進むにつれ「素粒子の記憶」と変化していきました。
しかし、言葉に定着することによって、作品イメージが限定されてしまうことから、しっくりくるシリーズ名が出てくるまでは「Untitled」シリーズとしました。

昨今のAIなどのデジタル技術、生命テクノロジー、宇宙技術の発達により、これまでの歴史に前例のない、大きな変化のタイミングに入りました。

環境の変化が起きると、生命はDNAの新たな扉を開いて適応してきました。
しかし生命の変化には、環境適応だけでなく、「こう生きたい」といった意思の様なものによる変化もあるように感じます。

「Untitled」シリーズは、これらの大きな変化に対して、私たち人類が、生命が、どこに向かおうとしているかを、自分の中で感じるための装置(アート)となります。

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